コラム
「小笠原からすみだへ。魚たちの1,000kmの旅路」
- いきもの紹介
- 活動報告
- 水族館の裏側
すみだ水族館は2012年の開業時より東京都小笠原村と提携し、「世界自然遺産である小笠原諸島の自然を知っていただきたい」という想いから、さまざまな取り組みを行っています。
「小笠原大水槽」はその一環として、小笠原村各所から水中景観などのアドバイスをいただいて制作した展示です。
展示生物は約45種450匹、水量は約300t、最大水深6mと、すみだ水族館を代表する水槽の1つです。
2026年1月に、小笠原大水槽へ新たな魚たちを迎えるため、1,000km離れた小笠原村で採集を実施しました。
今回は、採集から迎え入れるまでのようすをご紹介します。
(著者:展示飼育チーム 松田)
採集に向けて
小笠原諸島は、東京都心から1,000㎞ほど南にある島々です。1年を通して温暖な気候で、海の中を覗いてみると、「ボニンブルー」と呼ばれる、濃く深く、どこまでも青く透き通った色をしています。
すみだ水族館の小笠原大水槽は、その水中景観を表現しています。
例えば、岩場の形状やボニンブルーの青い色など。
そしてそこで暮らすいきものたちは、国内では小笠原諸島近海でしか生息が確認されていないシロワニをはじめ、小笠原諸島の海でよく見られる魚たちで構成されています。
この魚たちは、実際に小笠原諸島で採集したいきものたちです。
シロワニ、マダラエイなど開業時からずっと暮らしている魚もいますが、寿命などで数が減ってしまう種類もいます。
そこですみだ水族館では、約3年に1度、飼育スタッフが現地へ赴き、小笠原島漁業協同組合や漁師のみなさんと協力して採集を行っています。
今回は群れる魚たちを中心に、ウメイロ、ノコギリダイ、アカハタ、ヨスジフエダイなどを採集する計画を立て、準備を進めました。
いざ小笠原へ!
小笠原諸島の父島への移動手段は、基本的に「おがさわら丸」という連絡船のみ。到着までは24時間かかります。
過去にも別業務で小笠原へ出張した経験があったので、航海中の過ごし方は慣れたもの。
ほとんど電波が通じないので、本を読んだり、動画を見たり、景色を楽しんだりとゆったりとした時間を過ごしました。
特に、大海原に沈む夕日や昇る朝日をぼーっと眺めるのは、船旅でしか味わえない特別な時間です。
日が暮れた後、あらかたやりたいことを済ませてからは、何度寝したか分からないほどたっぷり寝て、翌朝、小笠原諸島に到着しました(笑)
デリケートかつ忙しい釣り採集
到着後は宿にチェックインを済ませ、小笠原島漁業協同組合の方々に挨拶と工程の確認を行い、翌日から釣り採集のスタートです。
採集は竿を使った手釣りで、1匹ずつ丁寧に釣っていきます。
「網や潜水して採集しないのですか?」と聞かれることがありますが、網での採集は魚の体に傷がつきやすく、まとまった数も集めづらいです。
一方で、釣り採集は、ポイントさえわかれば魚を狙って集めることができ、傷も少なくて済みますし、潜水では作業ができない深い水深や警戒心の高い魚にアプローチすることができます。
とはいえ、釣り採集にも大変なことはあります。
私が普段釣りをするときは、食べることが目的なので「どうやったら釣れるか?」という事ばかり考えていますが、釣り採集では、釣れる方法だけでなく、「大水槽の新たな仲間として迎えるためにいかに健康な状態で持ち帰るか?」を考えなければなりません。
具体的には、まず釣った魚を傷めないよう、なるべく触らずに針を外します。
また、水深の変化で浮き袋等が膨張してしまう魚は、注射針を刺して空気を抜く「エアー抜き」という作業も伴います。
これらの作業を揺れる船上で行うのは想像以上に大変です。
「エアー抜き」は普段の釣りではやることがない作業で苦戦しました。
刺す場所を間違えると内臓を傷つけてしまうこともあるので、慎重かつ迅速な作業が求められます。
さらに、魚たちは潮汐の変化に敏感で、活発な時間を逃すと釣果がほとんどないのんびりした時間が続くものの、当たり始めるとこれらの作業を手早く行う必要があるので大忙し。
始めのうちは、慣れない採集でしたが、先輩スタッフや漁師のみなさんに教えてもらいながら、なんとか魚を集めていきました。
その後、口や体の傷から病気にならないよう、薬を溶かした水で第二のケアを行います。
今回は6日間海に出て、毎朝8時30分に出港し、夕方頃に帰港する行程でした。その日に採集した魚たちは、漁協のみなさんにお借りした大きな丸い生け簀に入れます。
翌日からはオキアミなどのゴハンをあげますが、すぐに警戒を解いて食べている子がいて驚きました。
反対に、警戒心の高い子はなかなか食べてくれないので、慎重に観察しながらゴハンをあげます。
実際に自ら集めた魚たちを現地でケアをしていると、自分は飼育スタッフなのだなぁとより改めて実感しました。
こうして採集した魚たち。水族館へ向かう出発の数日前には、長い輸送中に食べたゴハンを吐いたり、糞をしたりなどで水槽の水が汚れないよう(魚も船酔いのような症状が起きることがあります)、少しだけゴハンを我慢してもらい、1000㎞の大冒険前の準備をします。
いざ水族館へ出発!
採集した魚たちは、「おがさわら丸」に同乗して一緒に帰ります。
出発当日は早朝から、漁協のみなさんにも協力いただきながら、生け簀から水ごと魚たちを運ぶ活魚輸送コンテナへ、状態を見ながら丁寧に移動させていきます。
そして、コンテナをおがさわら丸に載せてドキドキの出発。
島の方々の温かい見送りを受けながら、丸一日かけてすみだ水族館へ帰ります。
行きと違い、採集した魚たちを積んでいるので、うかうかしていることはできません。
1~2時間おきにコンテナ内の魚の状態や水温、エアーレーションは出ているか?などのチェックをします。
ちなみにこの日の海況は、出航が前倒しになるかも?と噂が立つほどの年に数回あるかないかの大荒れ模様…。
揺れる船の中、なにが起きるか分からないコンテナのチェックは気が抜けませんでした。
船は2時間遅れの翌日17時になんとか着岸しました。港で待機してくれた飼育スタッフと合流し、活魚トラックとコンテナへ魚を移します。
その後は息つく間もなく、陸路で1時間かけてすみだ水族館へ戻り、到着後は飼育スタッフ総出で急ぎつつも丁寧に魚たちを移動します。
初めての場所でも落ち着いて行動してもらえるよう、一旦かごに入れたまま、水に慣らし、その後、一斉に放流しました。
大水槽は改めて華やかになり、「それぞれの魚はどこに行くだろう?」「他の魚との相性は?」などと目を配りながら今回の採集を脳裏で振り返り、安堵のため息とともに今回の採集を終えました。
最終的には、当初の計画どおり、ヨスジフエダイ、ノコギリダイ、ウメイロ、アカハタなど約200匹の新たな仲間を小笠原大水槽に迎えることができました。
さいごに
初めての釣り採集で不慣れな点はありつつも、先輩スタッフや漁師のみなさんに助けてもらいながら、なんとか魚たちを集めることができました。
一方で、小笠原の魚たちの色鮮やかさや釣れたサイズの大きさには興奮しっぱなしで、終始大水槽に迎えるのが楽しみでした。
採集したときは「大きい!」と思っていた魚たちも、大水槽に放してみると、意外と小さく感じます。
これは、以前から暮らしている子たちが大きくなった証でもあり、成長の歴史を感じる瞬間でもありました。
例えばヨスジフエダイは、古参と新入りがそれぞれ大小のサイズ違いで群れています。
見比べると成長の差が分かりやすいかと思います。
今後は、新しく迎えた子たちが古参と見分けがつかなくなるくらいに成長してもらえるよう、引き続き見守っていきます。










