コラム
どこか気になる不思議なクラゲ「サカサクラゲ」
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アクアベースにある「ラボ」でクラゲのお世話をしていると、お客さまからたくさんの質問をいただきます。
その中でも特に多い質問が「サカサクラゲ」についてです。
飼育スタッフに質問をしたくなるほどのクラゲ。今回は、そのサカサクラゲについてお話しします。
(著者:展示飼育チーム 百﨑)
■サカサクラゲとは?
サカサクラゲは傘を海底に向けて着底し、ほとんど泳がないクラゲです。
とはいえ、深い海底ではなく、太陽の光が届く浅瀬の砂泥地に生息しています。
これは体内に褐虫藻(かっちゅうそう)と呼ばれる非常に小さな藻類が共生していて、生きるために太陽の光を必要とするからです。
栄養の多くを光合成に依存しているためか、他のクラゲのように漂わずに生活しています。
すみだ水族館では、こうした生態に合わせたサカサクラゲ専用の飼育環境を整えています。
浮遊させる水流が必要無いため四角い水槽で飼育し、光合成のための照明も設置しています(青色が強めの照明なので、撮影は難しいかもしれません)。
また、栄養の多くを光合成に依存しているといってもゴハンも食べるので、他のクラゲと同じように動物プランクトンも与えています。
■お客さまからの質問、そして私の決意

このサカサクラゲ、その見た目の特徴から
「泳がないの?泳げないの?」
「傘が下になっていることが普通の状態だけど、逆さにならないの?」
「海でも集まっているの?」
「海草に擬態(ぎたい)しているの?」
など、たくさんの質問をいただきます。
しかし、少し前まで、すみだ水族館の飼育スタッフは誰も“海で”サカサクラゲを観察したことがありませんでした。
質問が寄せられるたびに、「自分の目で見た野生のサカサクラゲの姿をお客さまにお伝えしたい!」という熱い想いが生まれ、現地調査に挑むことを決意しました。
野生のクラゲは時期や天候が悪いと会えないことが多々あり、私にとってのサカサクラゲもそうでした。
1回目は台風で調査を断念。
2、3回目はクラゲが発生していなくて会えず。
そして迎えた4回目の挑戦は、台風上陸直前の鹿児島県でした。
いおワールドかごしま水族館の飼育スタッフの力を借りてシュノーケリングで海に潜り、4度目にしてようやく野生のサカサクラゲを観察することができました。
「これでお客さまに野生のサカサクラゲの姿をお伝えできる——。」そう胸が熱くなったことは、この先も忘れません。
以下では、野生のサカサクラゲを見た経験もふまえ、お客さまから多く寄せられる質問に回答したいと思います。
Q:泳がないの?泳げないの?
A:泳げます。そしてたまに泳ぎます。

鹿児島の海では、傘径2~6cm程度の個体が3個体泳いでいるところを観察しました!
泳いでいる個体はすべて横に向かっていて、波がほとんどなく泳いでいる個体も少ないことから、波に流されていたわけではなく、自発的に泳いでいたのではないかと思っています。
なお、今回は手のひらサイズ以上に成長した大きな個体が泳いでいる姿は見かけませんでした。
Q:傘を上にしてひっくり返った状態で沈まないの?
A:ひっくり返っている個体は見ませんでした。

平衡石(へいこうせき)という、重力や体の動きを感知して平衡感覚を司る組織器官があるため、バランスをとり、上下はきちんと把握していて、傘が下になるように動いていると思います。
Q:野外でも集合しているの?
A:すみだ水族館のサカサクラゲは水槽内で集合しがちですが、その現象は、クラゲの拍動により水流が発生し、その水流がお互いを引き寄せているため起こると思われます。
野外観察では隣り合って密集しているようなことはなく、点々といる感じでした。
ただし、今回観察した場所では、日によって1.6kmある水域の南側か北側のどちらかに比較的に寄っている場合もあるとのこと。
また、別の海域では、狭く区切られた生息地で集合したように隣り合っていることが確認されています。
このようなことから、野外でも集まる事例はありますが、必ず集まらないといけないという事情はなさそうです。


Q:海草に擬態しているの?
A:これは、わかりません。
ただ、海草への依存は無い、もしくは低いと思います。
というのも、今回観察した場所は海底に海草が生えていないにも関わらず、大きなサカサクラゲが育っていました。
このことから、海草を利用することなくクラゲが育っていることがうかがえます。
一方で、アマモが生えかけている場所があり、確かに付属器(写真参照)と海草は見かけ上は似ていなくはないと思いました。
何か関係がありそうですが、今後の研究に期待ですね。

■野生のサカサクラゲを見た感想
さて、自信をもって質問に回答できたほかに、多くの感動もありました。
そのひとつは、模様や色のバリエーションを複数見られたことです。
サカサクラゲは褐虫藻と共生していて、光合成をします。
その褐虫藻の量で茶色の濃さが違うようです。
また、紫外線防御のための色素も持っているといわれ、それも関係していると思われます。



また、繁殖させて育てた個体と野生の個体で体型が違う場合が多いのですが、今回の観察で、野生のサカサクラゲは口腕(フサフサしている部分)が傘よりも広がるくらい大きいんだ!という発見も。野生の個体はフサフサがスゴい!


そしてもうひとつ印象深かったのが、「サカサクラゲがいる海域で泳ぐと肌がピリピリする」という体験をできたことです。
これは、昔から体験したことがある人が多く、近年になって海中に刺胞(しほう)を飛ばしているということがわかりました。
刺胞とは毒針が入った細胞のことで、クラゲに刺されるというのは、クラゲがこの刺胞を持っているからなんです。
そんな刺胞が漂う海。鹿児島でのシュノーケリングでは、ワセリンを塗って肌を防御しましたが、潜水の後半になると顔と水中マスクとの接点や口の周辺でピリピリを感じました。
「これが有名なサカサクラゲが海に飛ばした刺胞の痛みか!」と、クラゲに刺されているのに私はニヤニヤ……。
クラゲの飼育をしていれば、一度は味わいたい体験ができて大満足。
サカサクラゲに刺激を与えたときに特に強くピリピリしたため、刺胞を海中に飛ばしていることを実感できました。
そして改めて、野生の姿を見て、感じて、体験することの大切さを、身をもって感じることができました。
今回のコラムでは、不思議なクラゲ「サカサクラゲ」を紹介しましたがいかがでしたか?
今はたくさんの情報がすぐに手に入る時代ですが、水族館で暮らすいきものにもまだまだわかっていない事も多く、知らない事を知るワクワクがいっぱい詰まっています。
例えば、「あの長いヒレは何の役割があるんだろう?」「水玉模様にはどんな効果があるんだろう?」といった、クラゲ以外のいきものに関する疑問も同じです。
もし水族館の中でそんな“ふとした疑問”を見つけたら、ぜひ飼育スタッフに気軽に聞いてみてください。
一緒にその謎と向き合って、ワクワクを共有できたら嬉しく思います。
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