コラム

2023.06.23

小笠原諸島から魚たちがやってきた!約1,000kmのみちのりをレポート

小笠原大水槽は、国内では小笠原諸島近海でしか生息が確認されていないシロワニをはじめとした、小笠原諸島の海で見られる魚たちで構成され、現在約45種・450匹が暮らしています。その魚たちは、すみだ水族館のスタッフが小笠原村に直接赴き採集を行っています。今回のコラムでは、小笠原諸島で実際に現地で魚たちに会い、約1,000km離れた海からすみだ水族館にやってくる様子をお伝えします!

小笠原大水槽に泳ぐ魚たちの採集計画
小笠原大水槽は、小笠原諸島の海で見られる魚たち約45種・450匹で構成され、開業時からずっといる魚も暮らしていますが、中には寿命などで数が減ってしまう種類もいます。そこで、2023年1月23日、すみだ水族館内の「小笠原大水槽」に泳ぐ魚たちの補充を行いました。大水槽のいきもの補充に向けた採集は開業時から3回目。小笠原諸島の海中の景観を皆様にお伝えできるよう、約200匹の採集を3年ぶりに実施しました。‌

小笠原諸島の海を表現した「小笠原大水槽」
すみだ水族館は、2012 年の開業時より東京都小笠原村と提携し、さまざまな活動を行っています。「小笠原大水槽」は、その活動の一環として、東京都唯一の世界自然遺産である小笠原諸島の海をもっと知っていただきたいという想いから、水中の景観についても小笠原村各所から協力やアドバイスを頂いています。小笠原諸島独特の濃く、深く、どこまでも青く透き通った海の色「ボニンブルー」を表現した水槽では、小笠原諸島からやってきた約45種450 匹の魚たちをご覧いただけます。‌

<小笠原大水槽>



めったに見られない真っ白なミナミイスズミも!約200匹を、1匹ずつ丁寧に釣り上げる
小笠原諸島の海では、たくさんの魚たちが暮らしています。今回の目標は、まず、他所では滅多にお目にかかれませんが、なぜか小笠原諸島では色彩変異が多く出現する「ミナミイスズミ」という魚。通常はグレーがかった色をしていますが、鮮やかな黄色の個体が群れの中にかなりの確率で混じって暮らしており、小笠原諸島の海を特徴づける種類です。他、小笠原諸島の海でもたくさんみられる「ノコギリダイ」の群れや「カッポレ」などの大型魚です。‌
魚たちを採集する際は釣り竿を使用します。網を使ってしまうと魚の体表に傷がつくことも多いため、約200匹もの魚たちを、1匹ずつ丁寧に釣り上げます。水深によって、釣り上げると気圧の変化で「浮袋」と呼ばれる部分の空気が膨張して沈むことができなくなってしまうことがあり、そのようなときには船上にて速やかに浮袋の空気を抜いてあげるなどのケアも行います。‌
傷つけないように細心の注意を払いながら、6日間に渡る船上での採集が行いました。‌
結果、目標どおりに鮮やかな黄色の「ミナミイスズミ」をはじめ、「カッポレ」や100匹の「ノコギリダイ」の群れなど、およそ200匹を採集しました。今回はなんと、現地でもなかなか見られない珍しい「真っ白のミナミイスズミ」も採集することができました。‌

<1匹ずつ慎重に釣り上げる>



<ノコギリダイの群れ>



元気かな?確認をしながら約1,000kmの海を渡る

採集した魚たちは現地で大きな水槽に移し、水族館でのお世話と同様に、ゴハンをあげたり掃除をしたり、しばらく健康管理を行います。そして小笠原村から出発する日に、移動用の水槽へ移され、いよいよフェリーへ。同じ東京都なのに24時間かかる渡航の間、数時間おきに水槽にいる魚たちようすや水温をチェックし、確認しながら約1,000kmの海を渡ります。‌

<健康状態を確認しながら慎重に>



<コンテナでおがさわら丸へ!>



みんな元気で、すみだ水族館に到着!

約24時間かけてフェリーが到着すると、今度は港からすみだ水族館へ移動するために活魚運搬車の水槽へ。横から覗く魚たちは、みんな元気!しかし、長旅で疲れているであろう魚たちですので、ここからはスピード勝負。水族館からも飼育スタッフが合流し6人がかりで1匹1匹のようすをチェックし、傷つけないように注意を払いながら急いで移動します。そして活魚車に収容後は速やかにすみだ水族館へ向かいました。‌

すみだ水族館へ到着すると、今度は飼育スタッフたち総出で小笠原大水槽へ移す作業を行います。小笠原村を発ってから、この時点でおよそ26時間。みんな元気に、無事に大水槽へ移せるように時間との戦いです。活魚車の水槽から、大水槽へ向かうための移動式のコンテナへ移し、急いで移動!コンテナが水槽の近くへ運びこまれると、リレー方式で大水槽の中へ。初めての環境でも魚たちが安心して群れていられるよう、移し替える際にはまずは網で仕切った囲いへ全て移します。囲いへの収容後は、落ち着いているかどうか、しばらく経過を観察します。‌

<みんな元気!>



<希少な白いミナミイスズミ>



いよいよ、小笠原大水槽へ!

ついに、囲いから小笠原大水槽の中へ!飼育スタッフたちは、もといる魚たちに追い回されないか、ちゃんと群れになって落ち着いて過ごしてくれるか、とてもドキドキしていました。ところが・・・いざ大きな水槽に放たれた魚たちは、勢いよく泳ぎだし、それぞれの種類の魚たちとすぐに合流し、すみだ水族館で暮らしていた魚たちと、新たに小笠原諸島からやってきた魚たちが一緒に泳ぎだしました。その光景を見ていたスタッフたちもホッとした表情で元気に泳ぐ魚たちをしばらく眺めていました。現地に採集に赴いたスタッフも、共に移動してきた魚たちが無事に大水槽で泳いでくれて、この瞬間、はじめて安堵のため息がこぼれました。‌

すみだ水族館では初めて迎え入れた真っ白なミナミイスズミも、無事にみんなの群れに合流。黄色のミナミイスズミや、迫力を増したノコギリダイの群れが、よりいっそう小笠原諸島の水中景観を表現してくれました。‌


すみだ水族館は、東京都にある唯一の世界自然遺産である小笠原諸島の自然のすばらしさをお伝えする活動を、今後もさらに取り組んでいきたいと考えています。‌‌
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小笠原諸島からやってきた魚たちに、ぜひ会いに来てください!‌

今回小笠原諸島からやってきた魚たち

【ミナミイスズミ】‌
岩礁域に群れて生息しています。ふつうは灰色ですが、小笠原諸島周辺では黄化個体が多く確認されます。‌
水槽内のお気に入りポイント:水槽の上層の奥で群れていることが多いです。‌


【ノコギリダイ】‌
小笠原諸島近海で群れを形成する代表的な魚のひとつ。眼が大きいことから、現地では「メダマ(地方名)」と呼ばれています。水槽内のお気に入りポイント:水槽の上層で群れて泳いでいます。‌


【カッポレ】‌
上下に長く突き出した背びれと尻びれが特徴的な魚。釣りの対象魚としても有名で、伊豆諸島~小笠原諸島ではなじみのある魚です。‌
水槽内のお気に入りポイント:中層付近を泳いでいます。大水槽の中でも大型なので、存在感があります。‌


【オジサン】‌
下あごに2本のヒゲをもち、名前の由来も(ヒゲが生えた)おじさんに見える事から。この特徴的なヒゲをもつ他の仲間は小笠原諸島にもたくさんいますが、とりわけこのオジサンはよく見かけます。‌
水槽内のお気に入りポイント:下層を数匹の群れを成して泳いでいることが多いです。‌


【アオスジモンガラ】‌
体の中心部に細い青色の線が1本入っていることが名前の由来。海外の暖かい海には広く分布していますが、現在国内で出会えるのは、小笠原諸島を含む一部の地域に限られています。‌
水槽内のお気に入りポイント:色んな場所を泳ぎ回っていることが多いです。

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