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2025.08.06
すみペンたちの”衣がえ”
みなさんこんにちは!最近は暑い日が多く、今年は早めに衣がえしたよ!という方も多いのではないでしょうか。そんな私たちと同じように、ペンギンにも衣がえの時期があります。すみだ水族館で暮らすマゼランペンギンたちは、初夏に「羽の生えかわり」の時期を迎えます。以前のコラムで紹介した12月~5月の繁殖シーズンの後はこの羽の生えかわりの準備が始まります。今回のコラムでは、そんな夏の一大イベント「換羽(かんう)」についてご紹介します!(展示飼育チーム 山口 真穂)
■換羽って?
突然ですが、こちらの写真をご覧ください。
どちらの画像も「アジサイ」という同じペンギンで、左は通常時、右は全身の羽が生えかわる換羽中の写真です。体がもこもこしていて左の写真と比べると違うように見えますよね。このようにペンギンが1年に1回全身の羽が生えかわることを「換羽(かんう)」と呼びます。このもこもこの姿は1年に1度の貴重な姿で、私が初めて換羽中のペンギンを見た時は、普段よりも一回り体が大きく、羽がみるみるうちに抜け落ちていく様子にとても驚きました!
ペンギンの羽は時間の経過とともに痛んでくるため、毛羽立って水をしっかりはじくことができなくなり泳ぐことに支障が出たり、羽が劣化して抜けることで肌が露出してケガをしたりします。換羽はペンギンたちが生きていく上でとても重要な出来事なのです。
では、すみだ水族館のマゼランペンギンたちがどのように換羽期を過ごしていくのかを見ていきましょう。
■まずは換羽前の体づくり
すみだ水族館では準備期間も含めて6月~10月に換羽の時期を迎えます。
換羽に向けた体づくりが始まる6月はペンギンたちも私たちも必死です!換羽中、ペンギンたちは新しい羽をつくることにたくさんのエネルギーを使うので、換羽が始まる前にたくさんのゴハンを食べて栄養をしっかり蓄えます。
通常は、ペンギン1羽につきアジを1日10尾くらい食べますが、換羽前の時期は1日30~40尾!そのため、ゴハンタイムはいつも以上に大騒ぎ!ペンギンたちはとにかく食べたい!ので、タックルして他の子のゴハンを横取りしたり、少し高い岩の上から急にジャンプしてきたり。たまに勢いあまって飼育スタッフの手を間違えて食べようとする子もいます(笑)。ゴハンと間違えて手を食べられた時は本当に痛いです。
換羽前の姿とたくさん食べて蓄えた換羽中の姿を比較してみると…
本当に同じ子?と思うくらい換羽中の姿はムッチムチですよね?換羽中のペンギンを初めてみた時に、まるで「おにぎり」みたいで思わず撮影したこの写真は、今でもお気に入りの1枚です(笑)。ゴハンをたくさん食べて体に栄養を蓄え続けた結果、約2週間で通常の約1.5倍まで体重が増えます。例えば2024年の「アジサイ」は通常で4kgほどですが、換羽が始まる時には5.5kgに(約1.4倍!)。この時期の体重が増えたペンギンの歩き方が私は特に好きで、いつもなら登れるような小さな段差を登れなかったり、歩くときはいつもより足取りが重かったり。重たそうな体を一生懸命動かしている姿がとても愛おしく感じます。そんなペンギンたちの様子を見たい方は8月頃のご来館がオススメです!
■ただいま換羽中
こちらはさきほども紹介した換羽進行中のアジサイの様子。
なにかをじっと耐えているような表情をしていますよね。換羽期は、新しい羽を作るためにものすごくエネルギーを使うので、体調を崩しやすい時期でもあります。生えかわりの最中は、写真のように目つきがしんどそうでほとんど動きません。その理由が換羽中だからなのか、それとも本当に体調が悪いのかの判断が難しく、より徹底した健康管理が必要になります。換羽中はより間近でペンギンたちを観察し、体調の変化にすぐに気づけるよう細心の注意を払ってペンギンたちと接しています。紹介した写真はその時の1枚です。
すみだ水族館では、水分補給や食欲と健康状態の確認のため、換羽中でも1日にアジ1尾ほどを与えていますが、野生下においては換羽中のペンギンは泳ぐことができないため、食事も一切できません。また古い羽の下に新しい羽が生えてきているため体温調節もしづらく、この期間はひたすら陸でじっとしています。
全身の羽が生えかわるまでの期間は2~3週間ほど。私が実際に換羽中のペンギンを見るまでは、「じっとしているといっても少しは歩くでしょ?」と思っていたのですが、まるでお地蔵さんのように本当に動かないペンギンたちに思わず両手を合わせて拝んでしまいそうになりました(笑)。
■換羽期に飼育スタッフが行っていること
すみだ水族館では、すべてのマゼランペンギンたちが無事に換羽を終えられるよう、前年までの記録を振り返りながら、毎年1羽1羽に合った目標体重とケア方法を考えています。 急に体重が増えると体調を崩しやすい子は他の子よりも早い段階からゴハンを多めにあげたり、アジが嫌になってしまいなかなか体重が増えない子は違う種類の魚(例えばイワシやキビナゴ)をあげてみたり1回にたくさん食べられない子はゴハンの回数を増やしてみたりと、試行錯誤を重ねています。
全羽が健康に換羽期を過ごせるよう、「ペンギンたちの目つきは悪くない?」「血色はいつも通り?」「ゴハンを食べたい気持ちはある?」「ゴハンの食べ方は?」「呼吸の数や呼吸の仕方は?」「排泄の色や臭いは問題ない?」などたくさんの項目から1羽1羽の状態をいつも以上に注視し、小さな変化にすぐに気づけるようにしています。
■性格だけじゃない!換羽にも個性あり!
換羽が始まった直後は1枚ずつ羽が抜けますが、ピーク時にはペンギンの足元が羽の絨毯のようになるくらいに一気にドサッと抜けます。この抜け方にも個性があり、1羽として同じように抜ける子はいません。ここからは、私のお気に入りの換羽ファッションをご紹介します!
①「さくら」
頭のてっぺんだけ羽が抜け切れておらず、まるでちょんまげのよう!思わず撮影しました!
②「あんこ」
こちらは首回りだけ羽が残っていてまるでマフラーをつけているよう!オシャレ!すました顔もたまりません。
③「メロン」
背中に残った羽がまるでハート模様のよう!かわいい!
■換羽を終えて
ほぼすべての羽が生えかわると、ペンギンたちはようやくいつものプールに戻ります。左はピカピカの羽に生えかわってドヤ顔しているようにみえる「 だいふく」とほぼ換羽が終わった「チェリー」です。
私が初めて換羽終わりのペンギンを見て驚いたのは、生えかわったばかりの羽は「シルバーがかっている」ということです!つやつやと輝いていて神々しいですよね!9月頃につやつやの羽で泳ぐペンギンたちがたくさん見られますよ!
換羽期のペンギンの紹介はいかがでしたでしょうか?いつも以上に必死にゴハンを食べて太ったり、換羽後わりにピカピカな羽で泳いだり…。換羽期のペンギンたちは、普段とは違う姿をたくさん見せてくれます。「体重が増えたペンギンかわいい!!」「換羽終わりのペンギン神々しい!!」と思ってくれた方は、ぜひ換羽期のペンギンたちに会いに来てください!そして 私たち飼育スタッフと一緒に換羽を頑張るペンギンたちを見守っていただけるととても嬉しいです!